『今日の1枚』
ベーシストのスコット・ラファロ、ドラマーのポール・モチアンと組んだビル・エヴァンスの永遠不滅のピアノ・トリオ。
ジャズを聴き始めた頃、何もわからなかったけれど、バラードの深い演奏に飲みこまれていった・・・。
聴衆を前にしての演奏は、スタジオ・レコーデイングより緻密な完璧な音を織りなしているように聞こえる。
この演奏の10日後にラファロは急逝している。
惜しまれるわけだが、これだけの演奏を残していれば本望というべきだろうか。
音楽は時間の中の芸術と言われる。
音楽が始まり、そしていつか終わる。
今、この瞬間に、一音一音にすべてが凝縮されて、過ぎ去った音は帰ってこない。
しかし、けして帰らない名演奏を再び聴ける喜びは、何ものにもかえられない。
そこに、ラファロが確かに存在し、その息づかいまで聞こえてくる。
タイムスリップをして過去にもどったのか、それともトリオが蘇ったのか・・・。
ハイデッカーが、人間を時間内存在と定義したのが思い出される。
我々も、けして帰って来ない、「今」の連続の中に生きている。
だから時間の芸術の音楽に引かれるのであろうか。